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三六協定の労務管理実務ー残業時間上限規制について考え方を解説



前回こちらの記事で三六協定の概要や手続について説明しました。

三六協定とは?ー新様式での締結内容と届出について

その中で、時間外労働の「上限規制」について触れましたが、箇条書きを読んで頭では理解したつもりでも、実際に実務で計算をしてみないことにはなかなかイメージがわかないのではないかと思います。

加えてこの「上限規制」は、2019年の改正時に内容が新しくなった三六協定の重要な部分になりますので、適正な労務管理をする上で正しく理解しておく必要があります。

そこで今回は、具体的なケースを取り上げ、「残業規制による労働時間管理」について考えていきたいと思います。

目次

時間外労働の残業規制とは?

三六協定を締結するにあたって、残業・休日労働の時間数に上限が設けられていることは、冒頭に紹介した記事でお話しました。

上限規制は労働者の健康にとって非常に重要なものです。
しかしながら2019年の改正までは、この上限は今よりも緩く、強制力の乏しい一種の行政基準にすぎませんでした。

では、改正前はどのような上限だったのでしょうか。そして、改正でどのように変わったのでしょうか、こちらもあわせておさらいしてみましょう。

改正前の上限規制

改正前の限度時間は、告示(限度基準告示)により、原則1か月45時間(1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)、1年360時間(1年変形の場合は320時間)とされていました。
この告示は、違反すると行政指導の対象とはなりえるものの、罰則による強制力はありません。
また、臨時的な特別な事情のある場合(特別条項を設けた場合)、上限はなくなり、制度上は何時間でも残業させることが可能となっていました。極端な話、月100時間というのも可能だったのですから驚きです。(監督署の調査対象にはなりやすいでしょうが)

このような状態が長らく続いていましたが、近年長時間労働の是正の必要性が強まり、2019年の改正により次のようになりました。

改正後の上限規制

まず始めに、1か月45時間、1年360時間だった告示による上限は、法律に規定され、違反すると罰則の対象とされました。すなわち、強制力のなかった「告示」を罰則という強制力のある「法律」に格上げして、より厳しく規制することにしたのです。

さらに、特別条項を設けた場合、法律によって、絶対に上回ることのできない上限が設定されました。この上回ることのできない上限とは、以下の基準です。

残業時間が1年で720時間以内
残業時間と休日労働時間の合計が1か月で100時間未満
残業時間と休日労働時間の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1か月あたり80時間以内
残業が1か月45時間を超える回数は1年で6回(6か月)まで

注意:②③については特別条項の有無にかかわらず、1年を通じて常に守らなくてはなりません。(休日労働が多い場合、特別条項を設けていなくても違反となる可能性があります)

また、延長することができる時間を定めるにあたって、改正前は「1日」「1か月を超え3か月以内」「1年間」でしたが、改正後は「1日」「1か月」「1年間」となりました。
その理由は、例えば「3か月で120時間」とした場合、1か月目90時間、2か月目30時間、3か月目に0時間とすることで、特別条項を利用することなく、1か月45時間を超えてしまうケースが考えられるからです。

上限規制を守るためのポイント

上限規制を守るために、日頃から気をつけておきたいポイントは以下の通りです。

①「1日」「1か月」「1年」それぞれの残業時間が、三六協定で定めた時間を超えないこと

② 休日労働の回数・時間が、三六協定で定めた回数・時間を超えないこと

③ 特別条項の回数(=残業が原則的な限度時間を超える回数)が、三六協定で定めた回数を超えないこと

④ 1か月の残業と休日労働の合計が、100時間以上にならないこと

⑤ 1か月の残業と休日労働の合計について、どの2~6か月の平均をとっても、月あたり80時間を超えないこと

次に、これらを踏まえて、具体的なケースをもとに労務管理の実務をみていきます。

労務管理の具体例

ここからは、次の内容の三六協定を締結したとして解説していきます。

【原則的な月】
対象期間:2022年4月1日~2023年3月31日
残業上限:月45時間、年360時間
法定休日労働の回数:月3回
法定休日労働の始業・終業時刻:8:30~17:30

【特別条項】
特別条項の回数:年6回(最大6回)
年間の残業上限:年680時間(720時間未満であること)
月の残業と法定休日労働の合計時間の上限:85時間(100時間未満であること)

① 残業、休日労働について、締結した協定の内容を確認する

まずは、締結した三六協定の内容を確認して下さい。

今回の事例の場合、原則として、残業は月45時間以内、年間360時間以内、休日労働は月3回までになります。

繁忙期でどうしてもこの時間を超えてしまう場合は、特別条項により、年6回(6か月)まで、年間680時間以内、残業・休日労働時間をあわせて85時間以内とすることができます。

② 毎月の残業時間、休日労働の時間数、その合計を把握する

まずは、各労働者ごとに労働時間を把握します。各々「1日8時間、1週40時間を超える残業時間」「法定休日労働の時間数」「これらの合計時間」について算出し、それぞれが協定の範囲内に収まっているか確認します。

③ 対象期間における「特別条項を利用した回数」と「残業時間の累積時間」を把握する

上の表のように、「特別条項を利用した回数(=残業時間が月45時間を超えた回数)」と「残業時間の累積時間」を把握して下さい。

④ 毎月の残業と休日労働の合計について、2~6か月の平均の時間数を把握する

こちらがやや複雑なところです。

上の表を見て下さい。2022年9月における残業と休日労働時間の合計の2~6か月の平均値をみていきます。

8・9月の2か月平均:57.5→(35+80)÷2
7~9月の3か月平均:53.3→(45+35+80)÷3
6~9月の4か月平均:55.0→(60+45+35+80)÷4
5~9月の5か月平均:60.0→(80+60+45+35+80)÷5
4~9月の6か月平均:63.3→(80+80+60+45+35+80)÷6

ここでは9月を例に計算しておりますが、もちろん他のどの月においても、その隣接する2~6か月の平均が80時間以内でなければなりません。

また、協定の対象期間以外の月の労働時間についても算定対象の時間になります。例えば、2022年4月の平均を計算する場合、今回の協定の対象期間ではありませんが、2021年11月~2022年3月の実績も考慮することになります。

⑤ ①~④で把握した前月までの実績をもとに、その月に可能な最大の残業・休日労働時間数を把握する(残業時間編)

1.残業の最大時間数 ※( )内は今回の事例の場合

【特別条項の回数が残っている場合】
Ⅰ〔年間の残業時間上限(680時間)-その月までの残業累計時間]が月の残業時間上限(85時間)以上 → 月の残業時間上限(85時間)

Ⅱ〔年間の残業時間上限(680時間)-その月までの残業累計時間]が月の残業時間上限(85時間)より少ない → 年間の残業時間の残り時間数

【特別条項の回数が残っていない場合】
Ⅲ〔年間の残業時間上限(680時間)-その月までの残業累計時間]が原則的な月の残業時間上限(45時間)以上 → 原則的な月の残業時間上限(45時間)

Ⅳ〔年間の残業時間上限(680時間)-その月までの残業累計時間]が原則的な月の残業時間上限(45時間)以上 → 年間の残業時間の残り時間数

残業の最大時間数の計算例

上記の例で、2022年10月と2023年2月についてみてみます。

【2022年10月】
・9月までの特別条項使用回数は3回なので、10月以降の特別条項の残り回数は「3回」
・680時間(年間の残業上限)―335時間(9月までの累積)=345時間 ≧ 85時間(月の残業時間上限)
⇒上記Ⅰのパターンとなり、10月の残業上限は「85時間」

【2023年2月】
・1月までの特別条項使用回数は6回なので、2月以降の特別条項の残り回数は「0回」
・680時間(年間の残業上限)―595時間(1月までの累積)=85時間 ≧45時間(原則的な月の残業時間上限)
⇒上記Ⅲのパターンとなり、2月の残業上限は「45時間」

⑤ ①~④で把握した前月までの実績をもとに、その月に可能な最大の残業・休日労働時間数を把握する(残業+休日労働合計時間編)

2.残業+休日労働の最大時間数
当月の「残業+休日労働」の可能時間数の計算方法は、以下の通りです。
① 前月から5か月前までの合計をもとに、月平均80時間となる当月の時間数を上記の式に当てはめて計算します。

② ①で算出した数値の最小値と、月の残業+休日労働の上限(今回の事例では85時間)のいずれか小さい方が当月可能な残業+休日労働時間数になります。

【ポイント】
2~6か月のそれぞれで「月平均が80時間となる値」を算出し「その最小値」か、「月の残業時間上限」のどちらが小さいかを比較して、残業+休日労働時間数の上限値(可能時間)を出すことになります。

残業+休日労働の最大時間数の計算例

今回の事例の2022年10月において、2~6か月の月平均が80時間となる時間数はそれぞれ次のようになります。
①2か月平均80時間となる時間=2× 80 - 80=80時間
②3か月平均80時間となる時間=3× 80 -(80+35)=125時間
③4か月平均80時間となる時間=4× 80 -(80+35+45)=160時間
④5か月平均80時間となる時間=5× 80 -(80+35+45+60)=180時間
⑤6か月平均80時間となる時間=6× 80 -(80+35+45+60+80+80)=160時間
上記①~⑤の最小値「80時間」と残業+休日の上限(今回の事例では「85時間」)のうち小さい方、すなわち「80時間」となります。

上記1で算出した「残業の最大時間数」と2で算出した「残業+休日労働の最大時間数」を比較して、「残業+休日労働の最大時間数」の方が小さいときは、必然的に「残業の最大時間数」もその時間となります(休日労働が0時間の場合)。

以上のように、毎月、上記1および2の範囲内に収まるように日々の労働時間管理を行って下さい。

労働時間管理のポイントまとめ

①「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの残業時間が協定で定めた時間を超えないように管理する。

②「休日労働の回数・時間」が、協定で定めた回数・時間を超えないように管理する。

③「残業時間」について、特別条項の回数が、
  残っている⇒ 月の残業時間の上限まで(年の残業の残り時間が月の限度時間を下回ったら残り時間まで)
  残っていない ⇒ 原則の上限時間まで(年の残業の残り時間が、月の限度時間を下回ったら残り時間まで)
  となるように管理する。

④「毎月の残業+休日労働」が100時間以上にならないように管理する。

⑤「月の残業+休日労働」について、前2~5か月の合計と合算して月数(2~6)×80時間を超えないように管理する。(=2~6か月の平均を80時間に収めること)

終わりに

ここまで、三六協定期間における労働管理実務(上限規制)について、具体例をもとに解説してきました。

今回の事例は数値など単純化しているので比較的考えやすくなっていますが、実際の実務においては、1人1人、分単位で残業時間を算出するところから始まるので、より複雑・煩雑な作業になることと思います。

労働時間の管理をするにあたって、お困りの際は愛知労働法規事務所へご相談下さい。


弊事務所は、愛知県名古屋市で創業60年を超える社会保険労務士(社労士)事務所です。
弊事務所では、複数の有資格者スタッフが労働時間の管理業務に携わっております。
また、三六協定のほかにも変形労働時間制の届出や様々な労務管理、就業規則、労働問題、助成金など数多くの相談を受けてきました。
今回取り上げたの三六協定に係る労働時間管理についてはもちろん、その他の労働時間管理や労務管理全般について、疑問点やお困りのことがございましたらどのようなことでもお気軽にお問い合わせ下さい。

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